小児IgA腎症の概念と診断,疫学と予後,病理分類・臨床分類,遺伝学的背景,治療総論,移行医療を解説した.13年ぶりの改訂となる本書はMindsのガイドラインに準じて作成され,また初めて書籍として刊行.前版公開後に蓄積されたエビデンスを評価し,現時点で科学的に妥当と考えられた治療方針を簡潔に示した.厳選した10項目のCQを掲載し,小児腎臓病専門医,成人腎臓専門医,一般小児科医の日常診療で活用されたい.
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目次
刊行にあたって
はじめに
小児IgA腎症診療ガイドライン2020 委員一覧
本ガイドラインの作成について
CQ・推奨一覧
◉巻頭ページ
巻頭図 「小児IgA腎症診療ガイドライン」フローチャート
巻頭表1 小児IgA腎症軽症例の治療例
巻頭表2 小児IgA腎症重症例の治療例
Ⅰ 総論
1.小児IgA腎症の概念と診断
2.小児IgA腎症の疫学と予後
3.小児IgA腎症の病理分類・臨床分類
4.IgA腎症の遺伝学的背景
5.小児IgA腎症の治療総論
6.小児IgA腎症と移行医療
Ⅱ クリニカルクエスチョン(CQ)
CQ1 小児IgA腎症患者にレニン・アンジオテンシン系(RA系)阻害薬を使用することが推奨されるか?
CQ2 小児IgA腎症患者で組織学的および臨床的軽症例においてステロイド薬(+免疫抑制薬)を使用することが推奨されるか?
CQ3 小児IgA腎症患者で組織学的および臨床的軽症例において口蓋扁桃摘出術(+ステロイドパルス療法)が推奨されるか?
CQ4 小児IgA腎症患者で組織学的または臨床的重症例においてステロド薬を使用することが推奨されるか?
CQ5 小児IgA腎症患者で組織学的または臨床的重症例においてステロイド薬および免疫抑制薬等による多剤併用療法が推奨されるか?
CQ6 小児IgA腎症患者で組織学的または臨床的重症例においてステロイドパルス療法は推奨されるか?
CQ7 小児IgA腎症患者で組織学的または臨床的重症例においてステロイドパルス療法と口蓋扁桃摘出術の併用は推奨されるか?
CQ8 小児IgA腎症患者に運動制限は推奨されるか?
CQ9 小児IgA腎症患者に食事制限は推奨されるか?
CQ10 小児IgA腎症患者に対して成人後は成人診療科への移行が推奨さ
れるか?
PubMed検索式および検索件数
索引
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序文
刊行にあたって
本ガイドラインは,日本小児腎臓病学会の事業として,本学会の学術委員会やガイドライン作成委員会のメンバーによって作成されました.
本ガイドラインは,2007年に本学会学術委員会小委員会(小児IgA腎症治療ガイドライン作成委員会)によって作成・公表された「小児IgA腎症治療ガイドライン1.0版」の改訂版ですが,今回の改訂に際して,多くの改良点や特徴があります.
まず,本ガイドラインは,「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」および「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に可能な限り準拠して作成されました.本ガイドラインで採り上げられた10項目のクリニカルクエスチョン(CQ)はいずれも厳選されたものであり,システマティックレビューでエビデンスは評価され,推奨グレード(推奨の強さとエビデンスの強さ)が明確に示されています.
次に,本ガイドラインでは,移行医療にも十分に配慮していることが特徴の1つです.小児期に発症したIgA腎症は,軽症例・重症例ともに長期間かつ継続的にフォローアップすることが肝要で,小児科から成人診療科への確実なバトンタッチが必要です.本ガイドラインでは,作成初期段階から腎臓内科医である藤元昭一教授(日本腎臓学会よりご推薦)にご参画頂いて作成されている点も特筆すべきことであり,藤元先生にはこの場をお借りして心より感謝申し上げます.
さらに,1974年に,諸先輩先生方のご尽力によって始まった学校検尿は,わが国が世界に誇る検診システムです.実際,日本では,小児IgA腎症患者の70~80%が学校検尿で早期に発見されるのに対し,欧米諸国では75~85%の症例は肉眼的血尿で発見されます.この学校検尿による早期発見のメリットを最大限に生かすように,わが国では多くの質の高い治療研究が進められ,数多くのエビデンスが世界に発信されてきました.本ガイドラインの特徴の1つは,これらのエビデンスを真摯に,また謙虚に評価しながら,改訂作業を進めてこられたことです.
最後に,本ガイドラインは,トピックとして,小児IgA腎症の概念と診断,疫学と予後,病理分類・臨床分類,遺伝学的背景,治療総論,移行医療がまとめられています.いずれの項目も最新の知見が,簡潔・明瞭に記述されており,小児腎臓病を専門とする医師のみならず成人の腎臓専門医,さらに一般小児科や成人診療科の先生方の日常診療に大いに役立ち,さまざまな場面で活用されるものと確信しております.
最後に,本ガイドライン作成にご尽力頂いた作成委員のメンバーや関係者の皆様に心より敬意を表し,また深く感謝申し上げます.
2020年3月
一般社団法人 日本小児腎臓病学会 理事長
服部元史
はじめに
診療ガイドラインは「診療上の重要度の高い医療行為について,エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価,益と害のバランスなどを考量して,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書(福井次矢・山口直人監修『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014』医学書院,2014年)」と定義されています.
IgA腎症はわが国で最も多い慢性糸球体腎炎で,成人では慢性糸球体腎炎の30%以上,小児でも20%以上を占めます.1968年にBergerらによって報告された当初は,比較的腎機能予後は良好と考えられていましたが,その後の検討では成人例では20年で30%もの患者が末期腎不全に陥ったとの報告もあり,決して楽観できないことが明らかになりました.また日本人小児患者の検討でも15年で約10% が慢性腎不全に進行したと報告されています(Yoshikawa N, et al. Pediatr Nephrol, 2001).本症の臨床像はきわめて多彩で,慢性の経過を辿るため,適切なランダム化比較試験による介入研究が困難でコンセンサスの得られた治療指針はありません.しかし小児期発症のIgA腎症患者に対する不適切な薬物療法は,小児特有の副作用(ステロイドによる成長障害など)を招くため,治療指針の作成は急務でした.
そのような背景の中,日本小児腎臓病学会は2007 年に,「小児IgA 腎症治療ガイドライン1.0 版」を作成しました(作成委員会委員長:吉川徳茂先生,副委員長:五十嵐隆先生).それから10年以上の月日が経過し,エビデンスの蓄積もあったため,このたび改訂版を作成することとなりました.
今回のガイドライン作成にあたって1.0 版からの大きな変更点は2 点です.まず1 点目はEBM 普及推進事業Minds(マインズ)の推奨する診療ガイドラインの作成方法に準拠したことです.すなわち重要な臨床課題から臨床的疑問をあげ,それらに対するエビデンスを収集し,評価するという形式で作成しました.エビデンスの収集にあたっては,PubMed による検索で集積された文献,コクランレビュー等によるシステマティックレビューやその他の総説,および国際的な成書を参照しました.そしてそれらのエビデンスをもとに,作成委員間で議論を重ね,現時点で科学的に妥当と考えられる治療方針を簡潔に示すようにしました.したがって本ガイドラインは本学会に所属する小児腎臓病を専門とする医師のみならず,一般小児科医や内科医の方々の診療にも役立つものと確信しています.もう1つの変更点は書籍として出版することです.書籍化によって読みやすさが改善したのではないかと考えています.ただし,ガイドラインに共通して言えることですが,あくまで診療を支援するためのものであり,診療を拘束するものではありません.診療の現場でどのように用いるかは,患者さんやその家族の意向や価値観,医師の専門的知識と経験をもとに判断する必要があります.
今回の改訂版は日本小児腎臓病学会の学術委員会委員やガイドライン作成委員会委員の献身的な尽力によって発刊に到りました.この場を借りて改めて謝意を表したいと思います.また日本国内でコンセンサスが得られれば,英文化し海外へも発信していく予定です.
本ガイドラインがわが国の小児IgA 腎症患者の適切な治療に貢献することを祈念してやみません.
2020年3月
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
小児IgA 腎症診療ガイドライン2020 作成委員会 作成統括責任者
金子一成